自民党公約から中小企業向け施策を読み取ってみる

投票から一夜明けて選挙結果が出ました。各社報道の事前調査通り与党圧勝でしたが、私の居る神奈川6区は立憲民主党候補者が公明党候補者を破る(NHKニュースにリンク)など、小選挙区では前評判を覆す結果が出ているところもあった模様。

(それにしてもあの台風の中でも翌朝までにほとんど開票できるのもすごい。選管の人たちご苦労様です。)

この選挙結果を受けて、補正予算と来年度予算の編成が進んでいくと思われますが、その際に気になるのが与党の選挙公約の中身。

基本的には公約で示された内容が今後の予算にも反映されていくはずなので、今回は自民党の選挙公約のうち、中小企業向けの内容について確認していきます。

政権与党なだけあって、全体的に公約の中身も既存の政策を踏襲したものになっています。

自民党の中小企業向け公約をチェック

自民党衆議院選挙公約2017「政策BANK」より引用。

地域経済の主役である中小企業・小規模事業者が直面する、人手不足、マーケット縮小などの課題に対し、起業の活性化、地域の強みや魅力を活かした商品開発や海外展開を含めた販路開拓、人材育成、人材投資の推進、ICT・IoT導入支援の強化など生産性向上の取組みなどを通じ、中小企業・小規模事業者の成長、発展を促進します。とりわけ小規模事業者には手厚い支援を行います。また地域コミュニティを支える商店街の自立を積極的に支援します。

最初の公約は、ここ最近の中小企業支援のエッセンスを凝縮したような一文から。

起業活性化、地域ブランドの商品開発・海外展開、人材育成・投資、ICT・IoT導入で生産性向上など、基本的にはこれまでの踏襲。「小規模事業者」と「商店街」というキーワードも文末に付け足されているので、これらに対する支援も個別に打ち出される様子もうかがえます。

支援機関によるサポート制度や固定資産税の軽減措置等を活用することにより、中小企業・小規模事業者の設備投資を促進します。手続きに関しても引き続き簡素化に取り組みます。

これはそのまんま「経営力向上計画」の認定のことですね。ざっくり解説すると、自社の事業計画と経営力向上のためのアクションを申請書類に書いて国の認定を受けると、借入金利優遇・税の軽減・補助金などの審査での加点といった得点が受けられる制度です。

既にご存知の方も多いと思う制度ですが、とりあえず認定を取っておいて損はないものなので、まだの方は一度検討してみるのが吉です。これが公約の2番目に来るという事は、それだけこの制度を広めることに意欲的という事でしょうか。

公約では手続き簡素化に取り組むとありますが、申請そのものの手続きはA4用紙数枚書いて終わりなので、(国の制度ととしては)十分簡素化できてると感じてます。固定資産税の軽減措置を使う場合の手続きは確かにもっと簡素化してほしいですね。

中小企業・小規模事業者の収益力の向上と地域に根付いた価値ある事業の次世代への承継のため、承継の準備段階から承継後まで切れ目のない支援を集中的に推進します。その際、事業承継税制の様々な要件を拡充するなど、税制を含めた徹底した支援を講ずるとともに、M&Aを通じた事業承継の支援を進めてまいります。

いわゆる事業承継・後継者問題の話。個人的にはこの問題は公約のトップにもってきてもいいくらい重要だと思ってます。それくらい後継者問題はヤバイ。

2015年時点の調査でも、経営者年齢で一番多いのは66歳というデータが出ており、いくら中小の社長に定年が無いとは言ってもここから10年20年続けるのは無理な話。もちろん歳食って若い時ほど頑張れず経営が厳しくなってしまったところは早めに手を打つべきなのですが、この層の中には事業は黒字なのに後継者がいないから畳むというところもある。また、今は赤字でも若い経営者に生まれ変わって経営改善すれば持ち直すところもあるわけで、そういう所はきちんと引継ぎして残していかないといけない。

引継ぎするときは法律関係の整備や、傾いた事業の立て直しに外部の手が必要になったりするわけで、行政としてもこの問題については引き続きしっかり対策をしてほしいと思うわけです。

働き方改革で求められる対応や必要性について、中小企業・小規模事業者に対する周知徹底を図るとともに、都道府県や商工会・商工会議所が連携し、働き方改革に取り組む中小企業・小規模事業者に対するよりきめ細やかな充実した支援を行います。

先ほどの後継者問題とは変わって今度は現役世代の働き方改革の問題。ブラック企業対策、長時間労働対策、同一労働同一賃金などを意図してると思われます。

この問題に関しては中小企業の間でも、問題意識の高いところはかなり取り組みが先行している一方、そうでないところは取り残されている感覚がかなりあります。実は水面下では既に相当差がついており、今後この差は人の採用や人材の質などで顕著に出てくると予想してます。

もっと具体的に言えば、うまく出来てるところは子育て層など能力はあるけど働き方に制約がある人材を取り込んで人を回せるけど、ダメなところは既存の従業員を使い潰した上で安かろう悪かろうの人材しか取り込めなくなるんじゃないでしょうか。(低賃金で使うといっても年々最低賃金は上がってるので、そのうち行き詰まる)

これは中小企業にとってピンチでありチャンスでもあります。

働き方改革を実践しようとした場合、現在の雇用のルールでは対応しきれない点は数多くあるので、そうした点はぜひ変えていってほしいと思います。一方で「対応や必要性の周知徹底」や「きめ細やかな充実した支援」という取り組みがどの程度効果を上げるのかはちょっとわからないですね。まずは先に行政から働き方改革の実践を徹底する、くらいの本気度を見せていかないと一般には広まらないんじゃないでしょうか。

地域の支援機関や専門家、よろず支援拠点などを通じて「ものづくり・商業・サービス補助金」、「小規模事業者持続化補助金」などの施策を地域の隅々まで行き渡らせるとともに、商工会・商工会議所への「伴走型補助金」などを通じて中小企業・小規模事業者へのきめ細かな支援を行い、ローカル・アベノミクスの実現を図ります。

中小企業向けの補助金の話ですが、なんとビックリ「ものづくり・商業・サービス補助金」「小規模事業者持続化補助金」といった具体的な補助金名を出して行き渡らせると書いてます。これらの補助金は直近では平成28年度の補正予算で実施されたものですが、今年度の募集はすでに終わってます。にも拘わらずこれらの補助金を行き渡らせるという事は、少なくとも自民党としては再度実施する意欲があるということでしょうか。

補助金に関する情報は今後の補正予算編成などで詳細が出てくると思いますので、気になる方はまめに情報をチェックされることをお勧めします。

また、後段にある「伴走型補助金」というのは、商工会・商工会議所が行う「経営発達支援計画」に対する認定と補助金のことを指しているものと思われます。これは商工会・商工会議所が地元の中小企業・小規模事業者と一緒になって(伴走)経営発達に取り組む計画を作り、国の認定を受けることで実行にかかる予算を補助するという制度です。つまり、中小企業が直接補助金をもらうわけではありません。商工会・商工会議所の中でも支援に対する温度差があるのは事実だと思いますので、意欲のある所には追加の予算をつけるといったやり方には一理あるでしょう。

下請取引のあり方を改善し下請企業の適正な収益を確保するため、主要業界で策定された自主行動計画の実行を求めていくとともに、策定業種の拡大を図ります。また、独占禁止法や下請代金法の運用の徹底・強化を図ることにより不当行為の取締りを進めます。

下請法・下請振興法関連の話です。大手と取引したことのある会社の場合、年末ごろに公正取引委員会から調査票が送られてきた経験がある人もいるんじゃないでしょうか?

制度自体は地味であまり知られていない印象がありますが、取引先との力関係で無理な要求を受けがちな中小企業にとっては、この手のコンプライアンスは知っておくべき内容です。もちろん大企業も抜け目は無いので露骨な違反をしてくることは無いですが、自分が発注側になる際に適用されるケースもありますので、この場合はうっかり違反しないように気を付けましょう。

中小企業の経理を支援する立場から意見すると、このご時世でも当然のように手形で代金決済してくる大手がまだまだいます(法令違反にならない最長の60日サイトとかで切ってくる)

はっきり言ってこんな決済方法取られると資金繰りはあっという間に行き詰まりますので、支払いサイトの規制はもっと厳しくしてもいいんじゃないか(いっそのこと手形自体廃止してほしい)と個人的には思うのですが・・・そこまでは今の政府じゃ期待できないかな。

金融機関が、中小企業・小規模事業者に寄り添い、「ひと手間かけて育てる」金融の機能を十分に発揮することが重要であるため、借り手側からの意見も聞きながら、経営者保証に依存しない資金繰りの徹底を図るとともに、信用保証制度の見直しなどを進めます。

金融機関と融資に関する話です。「ひと手間かけて育てる」という言葉の裏に隠された重みは、金融業界で働いている方であれば実感されているんじゃないでしょうか。これは今の金融庁長官である森信親氏が打ち出している運営方針を反映したものと思われます。

誤解を恐れずざっくり言えば「金融機関は中小企業の担保を見て融資するんじゃなくて、今後の事業の可能性を見極めて(事業生評価と言います)融資して、融資した後もそこが成功するように継続的に支援しなさい。そうやって有望な貸し先を自分で開拓しないと金融機関自体が利益を上げられなくなりますよ」というのが今の長官の方針です。

これを方針を受けて各金融機関は事業性評価に基づいた融資の実績をつくらないといけなくなり、結構な苦労をしています。これは、これまで担保が用意できず借り入れができなかった中小企業からするとチャンスでもあります。

森長官の方針についてもっと知りたい方は橋本卓典著「捨てられる銀行」がおすすめです。普通に読み物として面白い。

また、「経営者保証に依存しない資金繰りの徹底を図る」とあるように、これまでは中小企業の融資であれば当然に経営者個人の連帯保証もセットだったのが、連帯保証なしで借入をする道というのも徐々にですが開けてきました。

とはいえ金融機関によってこれらの取り組みに対する積極度はまだまだバラつきがありますので、経営者の側からこれらの情報を使って積極的に交渉していくことが必要です。

この点は行政のさらなる後押しにも期待したいところ。

まとめ

自民党の選挙公約のうち、中小企業向けの内容をざっくり解説してみました。冒頭で書いた通り、基本的にはこれまでの政策の踏襲で、目新しいものがあるわけでは無いです。

正直、これらの政策が実行されれば全て上手く行くとはとても思えませんし、ここで触れられていない少子化対策や社会保障の問題(社会保険料負担が年々上がり続けてることは経営者にとっても従業員にとっても死活問題)については根本的な解決の方針が示されていません。消費税増税で凌ごうと思っても副作用は大きいでしょう。真剣に問題意識をそっちに向けてほしいと思います。

ただ、新しい政策が無いからといってダメなわけでは無く、これまでの中小企業施策でも成果を上げていたものや今後の重要な課題を示している内容も多くあります。特に後継者問題や働き方改革は、個人的に今後最重要な課題と考えています。

政府に期待することは悪いことではないですが、享受する側の中小企業者も黙って眺めているだけではダメで、うまく政策を活用し、有効利用できるものとそうでないものを自分で見極めていくことが大事という意見を述べてまとめにしたいと思います。

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