多様な働き方を応援する(※ただし電子申告する者に限る)平成30年度税制改正大綱

12月14日に平成30年度の税制改正大綱が公表され、年収850万以上の会社員が増税とか高収入の年金受給者が増税とか話題になっています。ぶっちゃけもうサラリーマンじゃないし、自分の会社から850万も給料出したらすっからかんになるので、個人的にはあんまり関心ないですが・・・

それよりも気になるのはフリーランスや自営業の所得税の話。先日Twitterで日経がこんな見出しで記事を出していました。

この記事に反応する人のほとんどは個人で事業所得があり確定申告してる人達だと思います。この見出しを見ると「おっ、青色申告で電子申告なら今より所得控除が10万円増えるのか!うれしい!」って印象を受けますよね。

ところがどっこい、よくよく記事を読んでみると・・・

青色申告特別控除は自営業者らが利用できる控除の仕組みで、控除額はいまは最大65万円だ。会社員向けの給与所得控除の額にあわせており、今回の一連の所得税改革に伴い、給与所得控除は10万円引き下げる。青色申告特別控除の控除額も55万円に減る。

20年1月以降、自営業者らは国の電子申告・納税サイトである「e―Tax」を使って税務申告をすれば控除額を10万円上乗せする。結果としてこれまでと控除額が変わらないようにする。また一連の改革で、自営業者向けの基礎控除を10万円引き上げることになっており、所得税全体の差し引きでは税負担が減ることになる。

いやいやいや、現行65万円の控除が受けられる青色申告特別控除が10万円下がって55万円に減額になるって話じゃないですか。実質増税ですよね?

その上で、電子申告(e-Tax)を使って確定申告する場合に限っては10万円の控除を付けることでプラスマイナスゼロの据え置きにしますよ、という内容。

つまり「電子申告しない奴は青色申告のメリットを小さくする!」という改正なわけです。

見出し詐欺的な印象が拭えなかったので日経のツイートに上記の旨を返信したところ、似たような印象を受けた人が多かったらしく、けっこうな数リツイートがありました。スマホがブルブル震えた。

そもそも多様な働き方に対応するのが今回の改正の目的

主要なニュースでは「サラリーマンの給与所得控除を減額して、誰もが摘要される基礎控除に振り替えることでフリーランスなどの多様な働き方に対応する」といった内容が報じられており、今回公開された税制改正大綱の基本的考え方でもその点に触れています。

様々な収入の中でも、給与収入と公的年金等収入のみに給与所得控除や公的年金等控除といった所得計算上の控除が認められ、働き方や収入の稼得方法により所得計算が大きく異なる仕組みとなっている。
様々な形で働く人をあまねく応援し、「働き方改革」を後押しする観点から、特定の収入にのみ適用される給与所得控除や公的年金等控除から、どのような所得にでも適用される基礎控除に、負担調整の比重を移していくことが必要である。
平成30年度税制改正大綱 P3)

フリーランスなど多様な働き方を応援することで働き方改革を後押ししたい。そのために特定の収入にのみ認められている給与所得控除や公的年金控除を誰でも受けられる基礎控除に振り替えて、収入の種類による税負担の不公平を無くすのが趣旨と読み取れます。

ここまでは納得できるのですが、今回の改正ではフリーランス・自営業が正規の簿記で帳簿をつける場合に認められている青色申告特別控除も減額されることになってしまいました。

(5)青色申告特別控除
(国税・地方税)
① 取引を正規の簿記の原則に従って記録している者に係る青色申告特別控除の控除額を55 万円(現行:65 万円)に引き下げる。
平成30年度税制改正大綱 P21)

青色申告特別控除引き下げの趣旨については大綱の基本的考え方の中でも特に示されていないので、給与所得や年金所得のように多様な働き方への後押しとは考えられません。(そもそも多様な働き方の形として応援される立場なのが青色申告の対象になるフリーランスですし。)

そうすると、青色申告特別控除引き下げの趣旨は働き方への対応とは別の所にあるということになります。それはズバリ確定申告にかかる事務手続きの電子化!

電子申告(e-Tax)を推進したいという別の思惑がある

先ほどの青色申告特別控除の改正には続きがあって、特定の条件を満たす場合は控除の引き下げは行わず65万のまま据え置きとなるルールが書かれています。

(5)青色申告特別控除
(国税・地方税)
① 取引を正規の簿記の原則に従って記録している者に係る青色申告特別控除の控除額を55 万円(現行:65 万円)に引き下げる。
② 上記①にかかわらず、上記①の取引を正規の簿記の原則に従って記録している者であって、次に掲げる要件のいずれかを満たすものに係る青色申告特別控除の控除額を65 万円とする。
イ その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律に定めるところにより電磁的記録の備付け及び保存を行っていること。
ロ その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表及び損益計算書等の提出を、その提出期限までに電子情報処理組織(e-Tax)を使用して行うこと。
平成30年度税制改正大綱 P21)

「イ」と「ロ」のうちどちらか一つをクリアすればOKという内容。

「イ」は電子帳簿保存法のことですが、フリーランスで利用する人は少数派だと思うので割愛します。「ロ」はいわゆる電子申告(e-Tax)のことですね。

なんで電子申告をする場合だけ控除の据え置きを認めるのかというと、税制改正大綱の中にそれらしき意図が書かれています。

近年、経済社会のICT化が急速に進展している。ICTは、生産性の高い経済社会を構築するとともに、国民の利便性や行政の効率性を高めるために重要なツールであり、税務分野においてもその積極的な活用が必要である。こうした観点から、税務手続の電子化等を一層推進し、電子申告・納税等の拡充を進める。平成30年度税制改正大綱 P2)

つまり、これが冒頭に書いた「電子申告しない奴は青色申告のメリットを小さくする!」に繋がってきているのでしょう。

税務手続きの電子化を進めて手続きの効率化を図りたいという意図はわかる。紙の書類持って税務署に並んで長時間待たされるのめんどくさいですし。

しかし、手続きの電子化を推進する仕組みとして、電子申告しない人の控除を削る方法を採用するのはちょっと驚きを隠せません。ニュースでも青色申告特別控除が減額されることはほとんど報じられてませんし、気づかないままになるフリーランスも少なくないのでは?

飴で釣るやり方から鞭を打つやり方に変わってきた

目的を達成するために制度を変えようとする場合、手段は大きく2つあります。飴と鞭です。

目的に沿ったやり方を取ってくれたらメリット(飴)を与えるやり方と、目的に沿ったやり方を取らないのであればデメリット(鞭)を与えるやり方です。

実は電子申告に関しても以前は飴を与えるやり方を取っていた時期がありました。こちら。

ざっくり言えば電子申告したら税金キャッシュバックキャンペーンとも言える内容。当初は電子申告するだけで税金が5,000円戻ってくる制度でしたが、普及のための一時的な措置のため徐々に金額が下がり、2013年3月からは廃止になっています。

電子証明書等特別控除は3月をもって廃止(ゼイタックス)

この当時は税務署も電子申告普及のためのノルマが厳しく課されていたようであり、税務署から電子申告に協力してくださいという手紙が送られてきたり、時には税務職員が会社に訪問してお願いしてくることもあったと聞きます。(会社からすると急に来られたらビビりますね)

以前はそのようなやり方で、メリットやお願いといった形で普及を促していたのですが、ここ最近はむしろ「まだ電子申告じゃないの?」っといったスタンスに変わりつつありました。こうした流れを受けて、いよいよ電子申告しないところに対してデメリット(鞭)を与えるやり方にシフトしてきたのが今回の青色申告特別控除の削減だと言えます。

メリット方式からデメリット方式へ切り替えるやり方の是非は議論の余地がありますが、もはや電子申告を行うのは先進的な人という見かたではなく、いまだに紙で申告書を行うのは遅れている人という見かたに国の認識がシフトしてきているということでしょう。これについていくら批判しても、もはや状況は変わらない。

今後も電子化に向けた取り組みは続くので、同様のスタンスで電子申告をしない人に対しては税制メリットの対象外とする措置を取ってくることが想像できます。今回の青色申告特別控除の削減はその始まりに過ぎないと考えるのが自然でしょう。であれば、フリーランス・自営業の方は今のうちに電子化に対応できるよう準備を始めるのが得策という事を述べておきます。

とりあえず何すればいいかわからない人は、マイナンバーカードは取得しておくのがおススメです。最初の取得にちょっと手続きがいりますが、今後はマイナンバーカード無しでも電子申告できるように手続きが改善される予定もあるようですが、2019年からなので少なくとも来年の申告ではまだカード必須です。

運転免許所が無い場合の身分証にもなりますし、住民票とかもコンビニで安く取れたりしますので、用意しておくと便利です。実際に電子申告する場合はICカードリーダーが必要になりますが、私が使ってるのはsonyのパソリ。昔買ったときはもうちょっと高かったような・・・

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